白蓮楼:布袋戲紹介 » 布袋戲について

布袋戲の特徴

特色

 大陸から移民とともに伝わった後、台湾独自の発展をしてきた台湾布袋戲。それを特徴づける要素として
  • 台詞は全て一人
  • 両手使いで操偶
  • 木彫りの頭
という三点がある。以上の『一人口白、雙手撐偶、木頭雕刻』はある研究書によれば”慣性的な表演特質”と言われており、「変化し難く定着」した台湾布袋戲の最大の特徴となっている。多人数による台詞や、木偶の材質や大きさの変更、音楽、舞台など、様々な新しい試みがされてきたが、結局はこれらの三点に回帰する傾向にあるようだ。
高雄市立歴史博物館の掌中戲舞台と戲偶展示
写真1 掌中戲舞台と戲偶
高雄市立歴史博物館で2004年夏に開催された『掌中乾坤-高雄布袋戲春秋特別展』展示物
彩樓
写真2 掌中國立台中圖書館にある布袋戲戲台
出處: Wikimedia Commons (Copyright © by Essolo)
 さらに、繊細な演技術や『彩樓』または『六角棚舞台』と呼ばれる豪華に装飾された傳統的舞台の精緻な造型もその特徴(写真1)。
使用される人形も、人間のように頭と両手両脚で構成されており、眼と口を動かすことが出来て非常に複雑な動きが可能である(写真2)。このような精緻な木偶を用いた熟練した操偶者の手により、舞台の上で生き生きとした劇が演じられることになる。

役柄(キャラクター)

 基本は【生】、【旦】、【淨】、【末または童】そして【丑】の五種類。もしくは『七大行當』と呼ばれる七種類、【生】、【旦】、【淨】、【丑】、【童または末】、【雜】、【獸】とされている。 それぞれを更に細分化(年齢、性別、身分、個性、などなど)することで60種類以上の役柄が存在する。完全な布袋戲劇団としては『七大行當六十角』(七大類別六十役柄)が必要らしい。
  • 【生】 男性。さらに年齢や身分によって小生、武生、老生、鬚生などにも細分される。通常主役は『小生』で、『文生』は頭脳派、『武生』は肉体派。古典的な劇では明確だが、近代的なものは文武の性格を併せ持つ役柄も多い。
  • 【旦】 女性。花旦、武旦、刀馬旦、老旦などに細分化
  • 【淨】または【花臉】とも言われる。強烈な個性(特殊な性格)を持つ役柄がこれに分類される。
  • 【末】 「老生」から派生したもので中年以上の男性を表す。
  • 【丑】 ふざけた性格の役柄。造形も滑稽なものになっている。
  • 【童】 未成年の役。生,旦,淨,丑それぞれに存在する。
  • 【雑】 神仙や妖魔、鬼怪など、生旦淨丑に所属しないもの。僧侶もこの中に含まれる。
  • 【獸】 動物。虎や馬、牛、獅など多数。「獸」を「雑」に含める場合もあるようだ。

台詞

 1人で全ての声を担当するため台詞師は『布袋戲』で大変重要な位置を占める。演じるには「五音」と呼ばれる発声を習得する事が必須。この「五音」は【生】、【旦】、【淨】、【末】、【丑】の声をあらわす。すなわちこれらを全て1人で演じ声音を使い分けることが基本となっている。又更に鍛錬を重ね発声をコントロールする事で、一人で十数種類の演じ分けが可能になるらしい…。
台湾国宝クラスの布袋戲大師・黄海岱は「生、旦、淨、末、丑」五種役柄の使い分けがすばらしく明確で、同じ女性でも様々な声音を使い分け演じられたということだ。
又、後述の霹靂布袋戲で台詞を担当する黄文擇師は黄海岱大師の孫で『八音才子』と呼ばれ、これまた多くのキャラクターを演じ分けられた。

 近年テレビや映画などの媒体に進出した布袋戲は、この一人で全ての台詞を担当という根本的な伝統を切り捨て、アニメの声優のようにキャラクター別に声を割り当てるものも出現した。しかし「慣性的特長」の一つである「一人口白」なくして布袋戲と呼ぶべきか議論の分かれるところ。


出場詩

 布袋戲の人形が登場するとき、通常はそれぞれキャラクター固有の詩が念じられる(四唸白、四念白)。出場詩、定場詩または詩號とも言われ、その個性や考え方などを顕著に表すものになっている。又、登場前の場の雰囲気や気分を高める効果も持ち合わせる。近代的な布袋戯では、ここ一番!という登場シーンで詠まれる事が多い。基本は典雅な漢文で「四句」五言あるいは七言古詩で構成された閩南語である。(※1)

 近年の電視版布袋戲では、必ずしも伝統的な漢文形式に囚われないばかりか、キャラクター固有の音楽(テーマ音楽)も併せて使用されている。この音楽を使用することにより、これから登場してくるのが誰なのかより明確に分かり大変効果的。この演出は出場詩の拡張版とも言える。

※1:四句(絶句)とは起句・承句・転句・結句を指す。5字からなる5言詩と、7字からなる7言詩。

 霹靂布袋戲では、秦假仙がこのキャラクター毎に定着した音楽を用いたギャグを常用し、視聴者を楽しませて(?)くれる。(音楽と後ろ姿、背景や演出などから本人が登場すると思いきや…くるっと振り向くと秦假仙の変装(コスプレ)だった… が多々あり、秦假仙に蹴りを入れたくなるというのは余談である。)
 霹靂布袋戲のなかのキャラクター、劍君十二恨の詩は、清代の文学者、張潮の『幽夢影』中にある「十二恨」を改定したものだそうだ(※2)。
※2:
張潮《幽夢影》 ~十恨~

一恨書囊易蛀,二恨夏夜有蚊,三恨月臺易漏,
四恨菊葉多焦,五恨松多大蟻,六恨竹多落葉,
七恨桂荷易謝,八恨薜蘿藏虺,九恨架花生刺
十恨河豚多毒。

霹靂:劍君十二恨 ~十二恨~

一恨才人無行,二恨紅顏薄命,三恨江浪不息,
四恨世態炎冷,五恨月台易漏,六恨蘭葉多焦,
七恨河豚甚毒,八恨架花生刺,九恨夏夜有蚊,
十恨薜蘿藏虺,十一恨未食敗果,十二恨天下無敵。